2014年7月25日金曜日

固定相場制時代のIMF

ヨーロッパ通貨間の相対関係を固定化し、通貨の変動による経済調整を回避する仕組み、かEMSである。ERM(為替相場機構)と呼ばれる為替レートの安定機構は基準為替レートに対してプラスーマイナスニ・二五%の範囲内(イタリアーリラ、スペイソーペセクなどは六%)で維持し、非EMS国の通貨に対しては共同でフロートとすることとしている。

この範囲を守るために参加国は相手国通貨で介入を行うこととし、この資金は相手国の中央銀行が無制限に供給する。この貸借はECU(ヨーロッパ通貨単位一参加国の通貨を合成して作られた通貨単位)建てでFECOM(ヨーロイ{通貨協力基金}における債権債務となる。固定相場制時代のIMFが行ってきた介入のための短期の資金の貸付と同様の機能を持つことになる。

当然のこととして、各国中央銀行間の金融政策は回調して運営されなげればならない。すなわち、為替レートが固定化されれば、インフレ国は経常収支が赤字になり、不均衡を生じる。そこで、これを避けるためには、各国は金融政策を通貨価値の安定している国に合わさざるをえなくなる。実際、EU各国の中央銀行は緊密な連絡のなか、協調的な金融政策を行っている。そうなれば慎重な経済運営を行っている国(ドイツ)が存在する限り、マルクが他の通貨をリードしてヨーロッパ各国の経済をも安定させることになる。ただ、ドイツ統一以降、インフレ率が高くなり、時として一方的な金融引締めを行い、これがヨーロッパ通貨間の調整を引き起こすなど不安要因にはなっている。

すなわち、IMF体制のヨーロッパ版がマルクを中心に形成されたのである。そして、ヨーロッパの最終的な通貨体制としてはトロール報告四小されているように、単一の中央銀行によって制御される単一通貨をめざしている。そして、一九九三年に発効したマーストリヒト条約では、九九年までに通貨統合を行うこととされた。これは政治経済両面でのヨーロッパ統合の大きな柱であると認識されている。

このヨーロッパ通貨体制は、域内に対しては固定相場制、域外に対しては変動相場制になるわけであり、少なくともヨーロッパ間での為替変動による経済不安定は除去され、この間では貿易・資本の為替リスクがなくなり、自由な移動を促進して広域経済圏を形成することになる。マルクがヨーロッパ通貨安定に大きく寄与し、EMSがある程度成功したことは事実として新しい通貨圏の形成となっている。さらに、ヨーロッパの資本市場はECU建ての起債が拡大し、ドルはより小さな位置に追いやられることになっている。