2014年7月11日金曜日

経常収支黒字対策はあるのか

すなわち、先に述べたように、経常収支とは国民の経済活動の成果を海外部門へ投資した、すなわち、資産運用を行った結果にすぎない。しかし、問題はこれが為替相場に大きな影響を与えることである。小宮理論によれば経常収支黒字を縮小させるような政策を行う必要はないことになる。しかし、日本とアメリカとの摩擦はできる限り避げるのが日本の生き方として適当であることは間違いのないことである。

先に述べたように、資本取引の効果を無視すれば、基本的には経常収支は為替レートで自動的に調整されればよいことになる。経常収支黒字であれば、為替レートが高くなるのは自然であり、そうなればドル建ての輸出価格が上昇して輸出が減少する。また、円高になれば円建ての輸入品の価格が低下するので、輸入が増えるはずである。変動為替相場制度に移行したときには、為替レートが経常収支を調整して自然に安定することが期待されていた。

しかしながら、これだけ円高になっても経常収支黒字は減少してこなかった。むしろ、拡大した時もある。これは円高で輸出価格が上昇し、仮に数量ペースで輸出が減少しても、ドル建てで測れば金額ペースでは拡大してしまい、統計上の経常収支黒字は拡大することをいう。

しかし、これはやがて数量ベースの減少効果のほうが拡大して、経常収支黒字は減少に転じるという期待があった、かってポンドの切下げが議論された時に、為替レートが切り下がると経常収支赤字幅は一旦、拡大し、その後縮小する、との指摘であった。このために経常収支の時系列的な変化を示すとアルファペットのJの形のように一且下がって上がるので、Jカーブ効果と呼ばれた。しかしながら、現実に円高は経常収支黒字減少を導くどころかさらに黒字を拡大させている。Jカーブにしては、長すぎる。

一方、貯蓄投資バランスの議論からすれば、国内の貯蓄超過が経常収支黒字の原因であるので、国内の貯蓄を減らすか、投資を増やせばよいことになる。政府の貯蓄が多いというのであれば減税を行えばよい。民間での投資が不足するのであれば、政府の投資、すなわち、公共投資の拡大を行えばよいことになる。しかし、現実は公共投資さえすれば黒字が減るというのは経験からは支持されず、そのように簡単にはいかない。