2015年8月22日土曜日

ベビーホテル

だが一方では、ビジネスである以上都合のいい情報しか出さない可能性もある。少子化による競争激化で経費や人件費の削減に躍起になる経営者もいるだろうし、「安い保育料」や「長時間保育」を求める母親のニーズを優先するあまり、子どもの成育環境が悪化するケースも見受けられる。実際、テレビで「宣伝」されるような理想的保育所の陰で、現実には多くの無認可駅型保育所が存在するのだ。私か取材した駅型保育所のいくつかは、繁華街の雑居ビルや駅前マンションの一室だった。日当たりの悪い部屋にベビーベッドがぎゅうぎゅう詰めで並び、オムツやおもちゃが壁際のラックに乱雑に積まれている。こうした小規模施設には。専用の調理設備のない場合が多いため、給食サービスが利用される。

だが、業者から運ばれてきた給食は温め直す手間がかかるし、離乳期、幼児期など発達段階に応じた食事を提供するにはそれなりの経費も必要になる。これを負担できる施設なら問題はないかもしれないが、なかには「給食は人手とお金がかかる」との理由で、イッスタントベビーフードや仕出し弁当を食べさせるケースもあるのだ。延長保育で夜まで過ごす子どもは、昼も夜も一日二食を仕出し弁当で済ますことになる。二〇〇四年五月二百付読売新聞では無認可保育施設の悲惨な実態が次のように報告されている。

〈夜七時以降も子供を預かる東京都内の無認可保育施設「ベビーホテル」のうち半数近い百以上の施設が、都の指導要綱で定めた基準に二年連続で違反していたことが分かった。保育士が足りない、子供を詰め込みすぎなどで、前年度の指導が″無視”されたケースも目立った。(中略)都が再犯の理由をただしても、「補助金がないため、余裕がない」との答えが返ってくるばかり。雑居ビルなどで営業する形態も多く、都職員がひどい環境に驚くこともある。

ある施設は、保育スペースで犬を放し飼いにしていた。六畳程度の部屋に十人の幼児を詰め込んでいた施設では、一、二歳児に市販の弁当の空揚げや煮物を細かく刻んで与えていた。おまる、哺乳瓶、食器を同じ流し台で洗っていた施設もあった〉「半数近い施設が、二年連続で違反」なわけだから、こうしたケースは必ずしも例外とは言えないだろう。それにしても赤ちやんやヨチヨチ歩きの幼児がいる部屋で犬を放し飼いとは劣悪すぎる。

女性が社会進出することのすばらしさや、仕事と育児を両立するかっこよさを理想的と持ち上げ、そうした女性の生き方を支援することが行政の責務と言われる。しかし、育児される側、つまり子どもたちは、本来、おとな以上に「支援」を必要とする存在なのだ。仕事や経済的問題を抱える女性への支援が必要なことは当然だが、おとなの事情や都合ばかり優先させ、親のニーズがかなえられることだけを「すばらしい」と推進していっていいのだろうか。