2015年6月17日水曜日

巨人々を震揺させた対抗馬

ちいさな穴を未然に防ぐのが、組織部員である。これは各課に二名いるのだが、職場委員や経協委員とおなじように、職場長の任命制である。誰が組織部貝か、一般の組合員には不明である。だから、組織部員は、職場では、「特高」とも「ゲ・ぺ・ウ」ともいわれたりする。研修会でみっちり労使協調の思想教育を受け、組合の活動で忠誠心を発揮し、やがて「総括」とか「係長」のポストについたものがなっているようだ。

職制と役員の二重人格で、次期の組合役員を選んだり、日産機動隊とよばれるハネ上がり分子を指揮したりする。部課長といえども、組織部員には一目も二目もおく。にらまれたら、彼の部下の統率にひびく。特高といわれるのは、そのためである。もちろん、仕事は、労働者の日常の監視と評定である。日産では、三日以上の休暇をとるときは、課長と職場長(組合役員)に「行動計画案」を提出する。誰と、いつからいつまでどこへ、なんの目的でいくか、を記入する。それが慣習となっているので、新婚旅行へ出発する労働者に、「何の目的でいくのか」ときいてしまった、との笑い話もある。

日産労組の来年の活動方針の柱は、P3運動である。これは、一九七七年から、生産性向上運動のキメ手として、日産共栄圏ぐるみですすめられているものだが、それを、さらに国レベルですすめていこうとするところに特徴がある。毎年一〇パーセントの生産性向上、毎年二〇パーセントの不良削減、「運動方針」には、こう書かれている。この運動は、産業企業の健全な発展を通じて、労働者福祉の向上・国民福祉の向上を求めていくものであり、三つのPは次のような意味をもっている。

①働きがい、生きがいの追求
P3運動は、自動車労連のすべての仲間が協力し、労働者参加による生産性向上運動を展開し、労働者および国民福祉の向上につなげていこうとするものであり、働きがい、生きがいを追求する活動の一環として推進する。

②労使協議による推進
生産性の向上には、労使関係の近代化、経営の民主化、とくに労働者の参加、労使の協議、協力が不可欠である。したがって、この運動は企画、実施、評価のあらゆる段階で、また労連段階、組合段階、職場段階で、労使が十分な協議を行いながら推進する。

③産業段階、国の段階等における発言力の強化
自動車産業の動向は、産業段階における経営者の政策や、国や地方自治体の産業政策によって大きな影響を受ける。したがって、産業、国、地方自治体等の政策に対するわれわれの発言力、影響力を強化していく。

賃上げの反対意見を暴力で封じようとしたリンチ事件にたいして、東さんたちは猛然と反撃を開始した。ビラやパンフをつくって地域の組合へ訴えて共闘態勢をつくり、集会をひらき、日産本社へ押しかけ、告訴し、記者会見した。これらが新聞で報道され、おりからの小型車国際戦争激化の情勢もあって、海外でも大きく報じられることになった。合理化工場の秘密の暴露である。それに力をえた東さんと嘉山さんは役員選挙に立候補した。追撃である。対立候補の出現は、日産労組史上はじめてのことだった。というのも、立候補者には「拡大職場委員会」の推せんが必要とされ、反対派が推せんされることはないから、事実上、対立候補者はあらわれない仕組みである。