2015年5月22日金曜日

子供が売り買いされる国の強烈な「格差」

結局、中国の「人権感覚」が数百年昔のまま、という認識を新たにすることでしかないのだが、その犠牲となるのが子供や女性、少数民族といった最も弱い人々であることもまたやり切れないことである。知人の在日中国人はいった。「貧乏で食べるのが精一杯な人間に、人権なんか関係ないんですよ。欧米は、人権という言葉を、中国を攻める口実にしているだけ」人権とは、貧しき者にも富める者にも等しく保障されるべきものというのが現代の世界の常識である。しかも、自身は、日本という「人権大事」の国にいながら、祖国の「貧乏人には人権不要」との言を、「知識人」を自認するその人は平然と口にした。世界最貧の地は、遠いアフリカにだけあるのではない。私たちの隣にある中国は、北京五輪を開催し終えた今となっても、この世で最も貧しい国のひとつだ。とくに、物質面での豊かさの・みを貪欲に追求し、支配層が富を独占し続けるためには手段を選ばないという考えが現代でもまかり通るという点で、「最も貧しい」国だといえるのである。

そうした貧しさと一見対照的に、強烈な「豊かさ」を見せつけるショーケースのような町であり、「美食の都」と称される広州。この町は、私にとっては複雑な記憶を甦らせる町でもある。早朝から夜中まで楽しめる飲茶や珍しい料理の数々は時折恋しくもあるが、あの高級ホテルでの子供たちのことを思い出すと、どうしても苦みを感じてしまうのである。子供が売り買いされる国の強烈な「格差」。中国には「裏口入学」という感覚がない? 地獄の沙汰も金次第の中国では当然、義務教育も「金次第」である。中国政府は、1986年、「義務教育法(小・中学校9年制の学費免除の義務教育)」を施行した。ところが、この政策は財源の裏づけに欠け、農村部の多くの学校が、学費以外のさまざまな名目の雑費を保護者から徴収してきた。

必要な雑費だけならまだしも、好条件の学校への就学と引き換えに、地方役人や学校関係者が親から賄賂を受け取るという中国の伝統的な習慣もまかり通っている。農村家庭にとっては重い負担となり、子供を中途退学に追いやる原因となっている。2004年の調査では、農村の小学生の中途退学数は10人に約2・5人、中学生は約4人だという。この問題は、経済発展が遅れてきた内陸部、チベットやウイグルといった少数民族の多く住む西部地区でより顕著である。一方で、都市部では金持ちの子弟専用の「貴族学校」が続々とでき、大学進学率も年々高まっている。中国では高校、大学の進学において「裏口入学」が公然であるらしく、何人かの大学生から、「あなたは何点足りないから、いくら払えば入れる」と知らされ、親が工面した金で「ゲタを履いて」入学したと堂々と口にしか。このことについて、中国人と結婚している日本女性と話をした。

「ほかの同級生への後ろめたさもあるし、日本人の感覚だと、やっぱり自分が優秀と思われたいから、お金で学校に入学したことは何かあっても黙っているよね?」こう聞くと、彼女は苦笑しながら解説してくれた。「中国では『金で問題解決ができる』ことは悪いことじゃない。むしろ、金が払えた=力があるわけだからいいことなの。後ろめたさ? 何それ? つてところでしよ」近年の中国は政府の奨励もあって大学新設ラッシュである。とはいっても、大学経営が必ずしも「おいしい商売」となっているわけではないようだ。多くの学校が外国人留学生の受け入れに熱心なうえ、名門大学までがホテル経営などのサイドビジネスに乗り出している。中国政府が大学新設を奨励してきたのには、教育レベルの向上という目的もあるが、口さがない友人は別の理由が大きいのだろうという。

「膨大な人数の若者が、10代で社会に出ても仕事はない。政府も与えてやれない。だから、一種の猶予期間をもたせるために大学進学を奨励してきたのよ」こうなると、貧しい親たちでも、たとえ借金を重ねたとしても「子供には自分だちと違う将来を」と考え、上級学校への進学に一緩の望みを託すのは当然の成り行きである。しかし、そうしてまで高校、大学へ進み、卒業できたとしても、それは所詮「猶予期間」が終了しただけのこと。大学新卒者の就職難という厳しい現実が待ち受けている。近年は新卒者の40%近くが職に就けないという数字も伝えられている。これに、80ページで紹介した、「1日1ドル以下(月3000円以下)の暮らし」という国際的な水準で見た貧困層が、中国政府の関係者の推定でも「2億人を超える」という状況を考え合わせてみてほしい。10%前後の経済成長率が何年も続いているのに、なぜ、新卒者に職がないのか? ここで思い出さなければいけないのが、「13億人」の人口問題である。