2015年4月17日金曜日

リアル書店とネット書店のちがい

たとえば、本書のような新書本の価格は、原則としてページ数に応じて決められます。少しでもいい内容の本にしようと、出版社も著者も努力するのに、内容に応じた価格設定にしないのです。トマトや牛肉の価格を決めるのに、味などの品質をまったく無視し、グラム数だけで価格を決めるようなやり方を、日本の出版社は平気でやっています。品質に対しておカネを請求しないやり方は。ネオン街の高級クラブに似た感じもします。しかし。高級クラブの経営者や従業員は、顧客満足度に応じたおカネをもらうために、他の価格設定をくふうしています。紙の本の価格には、そういった価格戦略がありません。日本では、紙の本を売るときに、顧客のことをさほど考えずに価格を設定し、原則としてその価格で売り続けます。

なお、単行本として数年販売したあと、文庫本にして安く売ることはよくあり。これは価格差別を意図していると指摘する経済学者もいます。たしかに。価格差別としての効果はあります。しかしそれは、戦略的に練られたものではないと感じます。映画のDVDソフトと比べると、よくわかります。映画DVDであれば、内容はほぼ同じものが、最初に高く売り出され、しばらくして廉価版として安く売られたりします。ただし、商品を廉価版に移行するのに、高いコストをかけたりはしません。他方、紙の本の場合には、文庫化するときに版を組み直したりしますから、同じ原稿を利用して別の商品をつくるような感じです。そうなると、価格差別としては効率が悪いといえます。

また、同じ著者で同じ内容の本なのに、単行本と文庫本が異なる出版社から発行されることもあり。個々の出版社からみれば価格差別になりません。著者にとっては価格差別として機能するかもしれませんが、そもそも日本では。紙の本の価格は原則として出版社が決めます。そして日本の出版社は。多様に差別化した商品を販売しているのに、価格戦略をほとんど意識していないという特殊事情があります。ケータイ小説なども電子書籍にふくまれますから、広い意味での電子書籍は。21世紀に入ったころから日本でも普及してきたといえます。ただ紙の本で新刊を出すときに、同じ内容の電子書籍も出すといったかたちでの、本格的な電子書籍への取り組みを、日本の出版業界が競い始めたのは、2010年のIPad登場がきっかけでした。