2014年12月18日木曜日

ヒトラーによる「ユダヤ人狩り」

ロシア人の場合は、このヴィッチないしイチを父親の個人名にっけて、自分の個人名と姓とのあいだにはさむのが一般的だ。たとえば作曲家ピョートルーイリイチーチャイコフスキーの名は、チャイコフスキー家のイリヤの息子ピョートルをあらわす。ちなみに父は、イリヤ・ペトローヴィッチなので、チャイコフスキーの祖父の名はやはりピョートル(ペトロ)だったことが分かる。

ロシア人の姓は、ゴルバチョフのオフ、プーシキンのインなどでも見分けられる。ちなみに、インで連想されるレーニン、スターリンはどちらも変名で、本姓はそれぞれ、ウリヤーノフとジュガシヴィリという。スターリンは「鋼鉄の人」を意味するペンネームが通称となったものだ。先でとりあげたアルメニア人も、父系の姓をもっという点て、やはりゲルマン系やスラブ系の民族と変わらない。アルメニア人で「……の息子」を示すのは、イアンやヤッである。例として、日本でもロッキード事件という不名誉な話題で有名になったコーチャン、『剣の舞』の作曲家ハチャトゥリアンがあげられる。

ハチャトゥリアンは、アルメニア共和国国歌の作曲者でもある。二〇世紀を代表する指揮者カラヤンは、自身はオーストリア人であると主張し、また一般にはマケドニア系と思われているが、その姓はアルメニア人の末裔であることを物語っている。ビザンチン帝国下にマケドニアに移住し、商人として財を成したのち貴族にまでなったアルメニア人は少なくなく、カラヤン家の祖先も、おそらくその典型と考えられる(『新アルメニア史』佐藤信夫)。

アラブのイスラム教徒も、ロシア人のように父親の名前を個人名と姓のあいだにはさむが、アブー・バクル(正統カリフ)といえば「バクルの父」、ウンム~とあれば、「~の母」となる。民族独特の姓というのであれば、やはりユダヤ人に触れないわけにはいかない。いわゆるヒトラーによる「ユダヤ人狩り」では、姓による選別もおこなわれた。

スターンやスタインがつく姓が多く、バイオリニストのアイザックースターン、指揮者バーンスタイン(ユダヤ系ドイツ人)は有名である。とくにバーンスタインは、ウクライナ北西部のユダヤ人ゲットー(強制隔離施設)のあったバーンズティーンに由来するもので、差別、偏見が激しかった一時期、彼はアングロ風のレニー・アンバーという偽名を使っていた。