2014年8月22日金曜日

批判浴びる格付け会社

保険会社の財務監督局は州政府単位で、国内外で事業を展開するAIGの経営やリスク管理を一元的に日々ウォッチする組織が米国には存在しなかった。AIGはワシントンへのロビイングに強く、米政府が本格的にCDSを監督することに反対していた。「私だったらコックス委員長の首をすげ替える」。大統領選が白熱していた○八年十月、マケイン大統領候補がSECのクリストファー・コックス委員長を批判した。コックス委員長は元議員で共和党員。共和党の大統領候補が選挙中に同僚を批判するのは異例のことだ。

ただでさえ、コックス委員長は、○八年三月にベアー・スターンズが破綻の危機に陥ったときには誕生日パーティーに出席するなどして、大切な会議に相次いで欠席。「市場の守護者」として落第点を付けられていた。だが、マケイン候補が怒っていた本当の理由は、コックス委員長が規制緩和をうたうあまりにサブプライムローン問題を見過ごした点にある。規制の枠外にあったのは、CDSなどハイテク金融商品だけではない。格付け会社など業界全体が抜け落ちていた例もあった。米下院の監視・政府改革委員会は十月二十二日、金融危機における格付けの役割に関する公聴会を開催した。証人として登場したムーディーズーインベスターズーサービスやスタンダードーアンドープアーズ(S&P)など格付け会社トップに対して「(格付け手数料を得るという)商業目的が格付け業務に優先したのでは」と批判が集中した。

今回の金融危機は、住宅ローンなどを担保にした債務担保証券(CDO)などの証券化商品の価格急落が引き金を引いた。こうした商品にムーディーズ、S&Pなどの大手格付け会社がトリプルAの高格付けを与えていた。公聴会に提出された資料では、格付け付与を目的に発行体に甘めの格付けを付与するように示唆した格付け会社幹部のeメールもあった。日本事業の責任者によるeメールも提出されており、格付けの「引き受け競争」が世界的に展開されていた事実も明らかになった。

「ちゃんとした実績をあげていなかったのは事実。何とかしないといけませんね」。オバマ新大統領の参謀を務める、ポールーボルカ上几FRB議長も同じ問題意識。今回の金融危機における格付け会社の役割を批判する。ボルカー元議長を長とする政策委員会「G30」は、金融監督体制の刷新を求める報告書を検討している。その中には格付け会社に対する監督強化が含まれるという。一方で、証券化ビジネスは格付け会社の収益源だ。発行一回当たりの格付け代は十万-二十万ドル、CDOなどでは三十万ドルを超えるという。米格付け会社は単純な利ざやが薄い事業会社向けでなく証券化部門をこの十年間強化し、証券化部門が出世コースだった。ムーディーズではデータの誤りを修正しないまま、証券化商品に高格付けを与え続けた例が明らかになったが、これは「商売」を優先したためだ。

「過去に米政府が格付け会社の監督を強化しようとしたところ、格付け会社は『言論の自由』を主張して、監督反対のロビイングを米議会で展開した」とハービー・ゴールドシュミット元SEC委員は格付け会社を批判する。格付け会社は発行体や証券化商品を組成する投資銀行に格付け付与者として選ばれない限り、報酬を得ることができなかったため、安易に格付けを与える傾向があったとされる。このため、発行体がなるべく高い格付けを与えてくれる格付け会社を選ぶ「レーティッグーショッピング」という業界慣行があった。ウォール街にとっても証券化ビジネスは金の成る木で、格付け会社を支持した。